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最高裁判所第三小法廷 昭和26年(れ)1206号 判決

主文

本件上告を棄却する。

理由

各弁護人の上告趣旨はいずれも末尾添附別紙記載のとおりである。

弁護人三浦強一の上告趣旨に対する判断。

所論の昭和二〇年一〇月一五日大蔵省令第八八号は外国為替管理法(改正前のもの)第一条の委任によって制定された所謂委任命令であるが、かかる法律の具体的委任による委任命令は日本国憲法施行の際(昭和二二年五月三日)現に効力を有する命令の規定の効力に関する法律によって失効するものでない。それ故右命令の失効を前提とする論旨は理由がない。その他の論旨は刑訴法第四〇五条所定の上告理由に該当しない(外国為替管理法第七条は輸出をしようとした者を罰する趣旨であること明であり、本件被告人の行為はこれに該当するものである--昭和二五年(れ)第四三三号同年九月一九日当裁判所判決参照--)。

弁護人鍛冶利一の上告趣旨第一点に対する判断。

原審は只事実上所論証人について決定をしない侭弁論を終結したに過ぎないので、決定をしないでも違法でないという法律上の判断(所論判例に反する判断)をしたものと見ることは出来ないから、刑訴第四〇五条第二号の要件を具備したものということは出来ない。のみならず記録によって見ると所論証人はいずれも被告人の性格に関する証人に過ぎず、なお記録を調べて見ると本件判決を為すに付き右証人はさして必要のものとは思われないので、原審がこれに付て決定を遺脱したことが、本件において判決に影響を及ぼすとは到底思えないから刑訴施行法第三条の二、刑訴第四一〇条第一項の趣旨からいっても原判決破毀の理由とならない。

同第二点に対する判断。

憲法第三七条第二項が当事者の申請する証人はすべて調べなければならない趣旨でないことは当裁判所の繰返し判例とする処である(例えば昭和二三年(れ)第八八号同年六月二三日大法廷判決)。此の趣旨から見ても原審が所論証人について決定をしない侭弁論を終結したことが憲法違反でないこと明である。

同第三点に対する判断。

記録を調べて見ると所論証拠はいずれも他の適法に証拠調べされた証拠の証明力を強める為めのものに過ぎないので、その証拠調の有無が原判決に影響を及ぼすとは到底思えないものである(昭和二四年(れ)第一九六四号同二五年一月一九日当裁判所判決参照)。又原審公判が公開されたことは記録上明であり原審裁判所が組織構成において偏頗の虞あるものでないことも明である(昭和二二年(れ)第一七一号同二三年五月五日大法廷判決参照)。論旨は畢竟違憲に名を藉りその実質は重要ならざる証拠に関する原審の手続上の手落を攻撃するに過ぎないもので上告の理由とならない。

同第四点に対する判断。

原審は孔徳民の供述以外に原審相被告人孔在營の「被告人の鞄の中から納品書が出て来た」旨の供述等をも証拠として居るのであって共犯者の自白のみを証拠としたのではないのみならず、共同審理を受けて居ない共犯者の自白は独立の証拠能力を有するものでありこれを証拠に採ることが憲法第三八条第三項に違反しないことは昭和二三年(れ)第七七号同二四年五月一八日大法廷判決の判例とする処である。論旨は採用に値しない。

よって刑訴施行法第三条の二刑訴第四〇八条に従い裁判官全員一致の意見により主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 井上 登 裁判官 島 保 裁判官 河村又介 裁判官 小林俊三 裁判官 本村善太郎)

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